こんにちは。
小児集中治療室に勤務する看護師のpi ✿︎(@shinkan0607)です。
子どもを看る上での知識を発信しております。
ECMO(エクモ)は、呼吸・循環不全に対する心肺機能び代替療法であり、集中治療を行う上で有用な管理手段です。
しかし、様々な合併症をきたす可能性があります。
それを防ぐためには、厳重な患者管理が必要となってきます。
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ECMO(エクモ)とは?
ECMO(=Extracorporeal Membrane Oxygenation)とは、体外式膜型人工肺のことです。
患者の静脈あるいは動脈から血液を脱血し、人工肺でガス交換された血液を動脈系あるいは静脈系に送血するシステムです。
ガス交換された血液を動脈に送血する場合(VA-ECMO)は、呼吸補助効果と循環補助効果が得られます。
静脈に送血する場合(VV-ECMO)には、呼吸補助効果が得られます。
呼吸及び循環が破綻し重篤な状態になった際にECMO(エクモ)により呼吸、循環の代替を行い生体機能の回復を待つことができます。
ECMO(エクモ)の適応
ECMO(エクモ)の適応は、呼吸補助と循環補助に大きく分けることができます。
呼吸補助
上記のような疾患において、高頻度振動換気法(HFO)や一酸化窒素(NO)吸入療法、腹臥位療法などを施行しても改善しない低酸素血症で、可逆性の呼吸障害と判断される場合は、ECMO(エクモ)の適応となります。
循環補助
急性心不全のうち、可逆的な病態が適応となります。
具体的には、心臓外科術後の人工心肺離脱困難症や重症の急性心筋炎などです。
また、治療抵抗性の致死性不整脈も導入の適応となります。
これ以外にも、様々な全身管理を行っても循環不全が遷延する場合には、多臓器不全を避けるために早期の導入を考慮する必要があります。
心肺蘇生の一環として(E-CPR)
通常の心肺蘇生法(CPR)に反応しない難治性の心肺停止に対して、ECMO(エクモ)を用いたCPRは体外循環式蘇生法(E-CPR)と呼ばれます。
PALSガイドラインでは、「院内の小児心停止患者において、回復可能または心移植可能な場合で、心停止後数分いないに良好なCPRが開始された症例に対してE-CPRを考慮する」となっています。
日本では、小児の心臓移植が困難であるため、適応は回復が望める症例に限られることが多いです。
ECMO(エクモ)療法の種類
脱血路と送血路の違いにより、V-A ECMOとV-V ECMOがあります。
V-A ECMOでは、血液流量を増加させることにより組織灌流量を維持することができます。
ただし、組織灌流量の維持に十分な血液流量を確保するためには、それに見合った循環血液量とカニューレ径が必要となります。
V-A ECMOと V-V ECMOともに、血流量を増やすか輸血によりヘモグロビン値を上げることによって酸素付加量を上げることができます。
ECMO(エクモ)施行中の薬物動態
薬剤は通常の投与量では希釈により血中濃度が低下するためECMO(エクモ)施行中は患者血液量の回路分も含めて循環血液量と考える必要があります。
低年齢、低体重児ほど本来の循環血液量との差は開大するため注意が必要です。
またECMO(エクモ)が導入された重症患者では、肝機能・腎機能障害を誘発していることが多く、より一層薬物動態の推測が困難となります。
回路への吸着や循環血液量の増加により、通常の投与量から増量が必要となる一方、肝機能・腎機能障害のため減量が必要なこともあります。
ECMO(エクモ)施行中の合併症
ECMO(エクモ)施行中は、様々な合併症が生じるため適切な全身管理を行う必要があります。
急性腎不全 急性肝不全
不十分な抗凝固療法の結果、回路内に凝血が生じたり、抗凝固療法を施行していてもカテーテルによる血流のうっ滞などの結果、血管内血栓を生じることがあります。
回路内に血栓や気泡がないか目視で確認します。

ECMO(エクモ)施行中は抗凝固療法が必要であり、出血の合併症には細心の注意が必要となります。
特に頭蓋内出血、創部出血に注意する必要があります。

脱血不良に起因する過剰な回路内陰圧や遠心ポンプにより生じることがあります。
多臓器不全による易感染状態に加え、多数のデバイスが挿入されていることが多く、カテーテル関連感染症に注意します。
中枢神経管理
中枢神経系の評価
瞳孔径や対光反射を観察し、頭蓋内圧亢進を示唆する所見がないか注意します。
大泉門が開存している症例では、頭部エコーで頭蓋内出血の有無を確認します。
中枢神経評価はこちらも参照としてください!
鎮静・鎮痛薬
小児では、患者の協力を得ることが困難であることが多く、安全なECMO(エクモ)管理のためには深い鎮静度が必要となることが少なくないです。
目標とする鎮静度は、患者の状態によって決定されます。
ココがポイント
得られる効果!
・酸素消費量の減少
・不穏状態の改善
・呼吸器との同調性の改善
・自己抜管の予防
・ライン事故抜去の予防
・心的外傷後ストレス障害(PTSD)の減少
一方で、長期の鎮静管理や過度の鎮静による合併症としては、離脱症候群のリスク増加、ICU入室日数の増加などが挙げられます。
筋弛緩薬
乳幼児では頸部から、心臓外科の術後患者では開胸からカテーテルを挿入することが多いです。
頸部や開胸でのアプローチでは、鼠蹊に比較するとカテーテルの挿入長が短くなります。
特に乳幼児では、わずかな体動が自己抜去やカニューレの位置異常によるECMO(エクモ)停止の原因となりうるため、筋弛緩薬を含めた安静維持が必要となります。
合併症として、無気肺や人工呼吸器関連肺炎、褥瘡の増加、筋力低下などが考えられます。
呼吸管理
ECMO(エクモ)の適応患者(特に呼吸補助目的)は、ECMO(エクモ)導入前にかなり高い呼吸器条件で管理されていることが多いです。
高い圧条件や高濃度酸素での人工呼吸器管理は肺にとって有害であるため、ECMO(エクモ)導入後は過度に高い吸気圧や酸素濃度を避け、肺胞を虚脱させないように高めの呼気終末陽圧(PEEP)を設定することが望ましいです。
これにより人工呼吸器関連肺損傷を防止し、障害された肺の回復を待つことができます。
V-A ECMOにおいて肺血流を減少させている状態では、EtCO2が表出されないことも多いです。(肺血流量が非常に少なく著しい換気血流不均等が生じるためCO2の量は極めて少なくなる)
通常は低換気での管理となり、全身の浮腫も著明な症例では胸郭の動きも分かりにくくなっています。
そのため通常より自己抜管が生じた際に気づきにくいため注意が必要です。
ココがポイント
管理のポイント!
・肺損傷を予防する(PIP:20 PEEP:10 換気回数:10回)
・虚脱させないように注意(気管内吸引は極力避ける、気道閉鎖には注意する)
・無気肺の予防(早期リハビリテーションの導入:ベッドローディング、体位交換)
・肺に水をつけないように管理(除水、利尿薬)
・EtCO2が表出されていない場合は、自己抜管に注意する
循環管理
循環作動薬
カテコラミンの使用により心筋の酸素需要が高まります。
V-A ECMOの施行中は心収縮力を上げる必要はないため、基本的にカテコラミンは中止します。
後負荷の増大は、左心機能の回復にとって好ましくなく、血圧の不用意な上昇による出血リスクも高まるためPDE-Ⅲ阻害薬や血管拡張薬などを用いて適切な灌流圧を保つことが望ましいと言われています。
後負荷の軽減
V-A ECMOでは、動脈血流は定常流となり、拍動流に比べて末梢循環維持には不利な状況になります。また、送血は左心室に対して後負荷*となります。
したがって末梢保温により後負荷の軽減に努める必要があります。
V-A ECMOの場合、自己心拍出と逆行する形で血流が送られる
↓
そのため自己心にとっては後負荷の増大となる
↓
自己心拍出ができないことで左心不全、冠血流低下へ繋がる
冠動脈血流の変化
V-A ECMOでは、冠動脈への血流は心拍出量とECMO(エクモ)流量のバランスに依存しています。
ECMO(エクモ)灌流の減少、心機能の改善による心拍出量の増加により、肺で酸素化された血液の冠動脈への流入が増加するが肺の回復が不十分であると心筋の酸素化も不十分になる恐れがあります。
不整脈や虚血性変化など心電図変化に注意していく必要があります。
酸素フラッシュ時の循環動態の変化
人工肺の結露やプラズマリークを除去するために行われる酸素フラッシュが行われます。
酸素フラッシュは並列循環である場合(Norwood術後)には、急速な二酸化炭素排出及び酸素化の促進により肺血管抵抗が低下します。
ココに注意
肺血流の増加と体血流の減少から致命的となることもあるため、必ず監視下で行う必要があります。
まとめ
V-A ECMOは心肺機能、 V-V ECMOは肺機能の一部もしくは全部を補助することができます。
回路の特性や各回路内での変化の意味を理解し、患者への影響と関連付けてアセスメントすることが重要です。
次回は、ECMO中のさらなる合併症や管理についてお話ししていきます。