こんにちは。
小児集中治療室に勤務する看護師のpi ✿︎(@shinkan0607) です。
子どもを看る上での知識を発信しております。
毎年、秋〜冬の時期に流行するインフルエンザ。
今回は、インフルエンザと脳症についてお伝えします。
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インフルエンザとは?
インフルエンザとは、インフルエンザウイルスに感染して起こる感染症です。
インフルエンザウイルスは、A型、B型、C型、D型の4種類に分けられます。
主にヒトに流行を起こすのは、A型とB型のウイルスです。
A型・B型インフルエンザの流行には季節性があり、短期間で多くの人に感染が拡がります。
インフルエンザと風邪の違い
インフルエンザと風邪とは、原因となるウイルスの種類が異なり、通常の風邪はのどや鼻に症状が現れるのに対し、インフルエンザは急に38~40度の高熱がでるのが特徴です。
さらに、倦怠感、筋肉痛、関節痛などの全身症状も強く、これらの激しい症状は通常5日間ほど続きます。
また気管支炎や肺炎を併発しやすく、重症化すると脳炎や心不全を起こすこともあり、体力のない高齢者や乳幼児などは命にかかわることもあります。
インフルエンザとかぜの症状の違い
インフルエンザ | かぜ | |
発病 | 急激 | ゆるやか |
発熱 | 通常38℃以上の高熱 | ないか、あっても37℃台 |
強い全身症状 | ある | ないか、あってもまれ |
上気道炎症状 | 全身症状に続いて出現 | 最初からみられる |
咳 | 強いことが多い | 軽い |
小児におけるインフルエンザ
小児では、インフルエンザが恐れられています。
それは何故でしょうか?
1〜5歳くらいの子どもでは、インフルエンザによって「脳炎・脳症」を起こすリスクが高いからです。
流行によって異なりますが、小児を中心として年間100〜500人ほど発症しています。
そしてそのうちの10~30%が死亡、そしてほぼ同数の後遺症患者が出ていると推測されています。
インフルエンザ脳症とは
インフルエンザ脳症は、原因は不明ですが、日本人に多い傾向にあると言われています。
インフルエンザ脳症は、脳浮腫(脳全体が腫れる)や脳圧亢進(脳内の圧が上昇)が生じ、その結果、けいれん、意識障害、異常行動などの急速に進行する神経症状がみられます。
さらに、血管が詰まったり、多くの臓器が働かなくなり(多臓器不全)、その結果命に関わる重篤な状態となります。
脳炎と脳症との鑑別は厳密には難しいですが、一般的に、脳内に直接ウイルスが浸潤して、炎症を起こす場合を脳炎と言います。
脳内にウイルスが検出されず、過剰な免疫反応が見られる場合に脳症と診断されています。
脳症の発症は急激で、インフルエンザに罹ったその日から1~2日くらいで発症します。
約80%が発熱後、数時間から1日以内に神経症状が見られています。
わずか1日足らずのうちに重症になることもあります。
朝に発熱したら、夜は人工呼吸器を装着していたというようなこともあります。
ココがポイント
できることは対症療法!
・抗インフルエンザ薬の投与
・抗けいれん薬の投与
・中枢神経管理(脳保護を目的とする)
・脳波測定(脳波から脳の状態を知る)
・呼吸管理
インフルエンザ脳症を起こしやすい年齢(1〜5歳)は、熱性けいれんも起こしやすい年齢であり、鑑別が難しいです。
けいれんを起こした=脳症といわけではありません。
脳波、C T所見、血液検査などの臨床所見から診断していきます。
実際にインフルエンザの流行時期には、PICUへのインフルエンザによる呼吸悪化症例やインフルエンザ脳症による中枢神経管理を要する患者様は多くいます。
インフルエンザ脳炎は何故起こるのか?
インフルエンザ脳症は、なぜ起こるのでしょうか。
実際には、まだはっきりとした原因は解明されていません。
インフルエンザウイルスは、最初、鼻粘膜に感染して、ここで増殖して全身に広がります。
当然、脳内にもウイルスが侵入していると思われます。
ところが、脳症では、脳内からウイルスが検出されたことは殆どありません。
つまり、脳症はウイルスが直接脳内に侵入しなくても発症するのです。
インフルエンザの病原性(毒性)は、きわめて強く、このため体を守る働きをする免疫系が強烈なダメージを受けます。
その結果、過剰な免疫反応が起こり、「高サイトカイン血症」という状態になります。
脳内では、免疫が正常に機能しないため、脳細胞が障害を受けて、けいれん、意識障害、異常行動などが見られるようになります。
さらに多くの細胞が障害を受け、全身状態が悪化すると、呼吸が止まったり、血管が詰まったりし、多くの臓器の障害(多臓器不全)へと進み、命に関わる重症となります。
まとめ
- ウイルスの感染と鼻粘膜での増殖 (熱、鼻汁、咳などのカゼ症状)
- 免疫系の障害→高サイトカイン血症 (脳内では、高サイトカイン脳症→けいれん、意識障害、異常行動)
- 多くの細胞が障害を受け、全身状態が悪化
- 血管が詰まったり、多くの臓器の障害 (血管炎~多臓器不全)
脳症発生時の症状
脳症が発生すると、上記のような状態に陥ることで、意識障害などが現れます。
脳症が疑われる臨床所見は以下の通りです。
ココがポイント
意識障害 けいれん 異常言動や行動 嘔吐
乳頭浮腫(眼球と視神経をつなぐ視神経乳頭が腫れる)
脈拍・血圧・呼吸の変化 瞳孔・眼球の異常
意識障害
呼びかけに答えないなどの意識障害がおこります。
年齢に応じた意識障害の評価を行う必要があります。
GCSなどを使用して意識レベルを判断します。
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けいれん
インフルエンザに罹患した際のけいれんの症状は単純型、複合型の2つに分類されます。
単純型のけいれんに意識障害などを伴う、あるいは複雑型と診断された場合、脳症の可能性を疑われ、早急な入院や精密な検査などの処置が必要になります。
単純型けいれん
「概ね15分以内」
「連続しない単発での発生」
「半身ではなく、両手両足で起こる左右対称でのけいれん」
このような症状が起こります。
単純型が収まった場合でも経過観察となる場合もあります。
けいれんが入眠中の症状であれば、必ず意識回復を確認するまでは病院内で経過観察をするなどの処置が必要です。
複雑型けいれん
単純型以外のけいれんを複雑型けいれんと呼びます。
「15分以上の長時間けいれんが続く」
「左右非対称に発生する」
「けいれんを何度も繰り返す」
などの症状がみられます。
このタイプのけいれんが現れると、経過観察ではなく即座に脳症の可能性を疑います。
異常言動や行動
症状の初期に意味不明な言動や自分の手を噛むなどの異常な行動をとる例があります。
その他にも、家族の顔がわからないなどの人物の認知力の低下、幻視・幻覚を見る、恐怖感を感じる、叫ぶ、大声で歌いだすなどの症状がみられます。
中には他人に危害を加える可能性がある行動をとる場合もあります。
一方で話そうとしても言葉が出ない、舌を何度も出すなど異常行動が小さく、第三者が確認しづらいケースも考えられます。
まとめ
現状としては、インフルエンザ脳症に対しては対処療法しかありません。
実際に、集中治療室にも寒い時期ではインフルエンザ脳症の患者様が多く入室されます。
予防接種の効果は確実ではありません。
しかし、防げる可能性があるものもインフルエンザワクチンであることも事実です。
そのため、小児症例では摂取することをおすすめします。
次回は、インフルエンザワクチンについてお話ししていきます。